誹謗中傷

誹謗中傷で逮捕されないの?捕まる確率や逮捕例を紹介

2023年04月20日


「誹謗中傷では逮捕されない」や「誹謗中傷で逮捕される確率は低い」という噂を聞いたことがある人は多いと思います。
インターネット上における誹謗中傷はもはや常態化していると言わざるを得ない状況にありますが、誹謗中傷がきっかけとなり逮捕に至ることもあります。
この記事では、誹謗中傷で逮捕されるのかどうかや、誹謗中傷で逮捕された実例などを踏まえ「誹謗中傷と逮捕」の関係について初心者にもわかりやすく解説します。

誹謗中傷で逮捕されるのか

誹謗中傷で逮捕されないと思い込んでいる人は多いようですが、誹謗中傷が原因で逮捕されることは十分にあり得ます。 誹謗中傷で逮捕される確率は高くはないものの、事実として誹謗中傷を行った人物が逮捕される事件が起きていることから、誹謗中傷で逮捕されることもあると言えます。 昨今の誹謗中傷はインターネット上のSNSやネット掲示板などを中心にして行われていますが、その多くは匿名性が高いことが特徴で、発言や投稿した人が特定されにくいと思われがちです。 しかし、誹謗中傷を受けた人や組織が、不法行為に基づいて「発信者情報開示請求」をすると、インターネットサービスプロバイダーなどの協力を通じて、誹謗中傷を行った人物を特定することが可能になります。 この結果、匿名やハンドルネームで誹謗中傷した人物であっても、氏名や住所、メールアドレス、IPアドレス、SIMカード識別番号などといった「発信者情報」が特定され、加害者として特定されるのです。 加害者として特定されるということは、刑事罰の対象者(刑事上の責任を負う者)になることから、逮捕や起訴もあり得ます。 つまり、誹謗中傷をした人物はいずれ特定され、書類送検されたり、逮捕されたりするという訳です。

誹謗中傷で逮捕されるとどうなるのか

誹謗中傷で逮捕された加害者は、警察の取り調べを受けた後、検察への送検、勾留、起訴の流れを辿って、有罪か無罪かが確定します。 仮に、起訴されると被告人として刑事裁判で審理されます。日本の司法制度においては、起訴されるとほぼ間違いなく有罪判決を受けることになります。 有罪判決を受けると、刑事罰(罰金や拘留、科料等)を受け、加害者には前科がつきます。 対照的に、起訴されない「不起訴」処分や、警察の段階で事件処理を終わらせる「微罪処分」になると釈放されるため、加害者には前科や刑事罰はありません。(ただし、被疑者として捜査対象になった前歴がつく) 誹謗中傷による事件においては、抽象的な内容が多いため名誉毀損罪や侮辱罪などが成立しないことも多く、結果的に不起訴や微罪処分で決着することもあります。 警察によって逮捕される場合は「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」が必要です。「逮捕の理由」は、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由であり、「逮捕の必要性」は逃亡や証拠隠滅のおそれがないと言えない場合とされています。 このことから、誹謗中傷を行った人物に対し「逮捕の理由」が存在し、なおかつ「逮捕の必要性」があると判断されることではじめて、身柄を拘束する「逮捕」に至ります。 一方、誹謗中傷の加害者は「逮捕の必要性」がないと判断されることもあり、加害者(被疑者)が在宅のまま捜査される「在宅捜査」や、警察から検察へ書類のみを送致する「書類送検」といった、逮捕を伴わない手続きになることが多いとされています。 このようなことから、誹謗中傷を巡る事件については、逮捕よりも「起訴されるかどうか」が大きなポイントになると言えるでしょう。

誹謗中傷で逮捕されるケース

誹謗中傷で逮捕されるような場合は、主に以下のような罪が成立していることになります。
  • ・名誉毀損罪
  • ・侮辱罪
  • ・信用毀損罪
  • ・脅迫罪
それぞれ詳しく解説します。

【名誉毀損罪】

誹謗中傷で逮捕されるケースとして「名誉毀損罪」があります。名誉毀損罪は「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合に該当します。 具体的には、ネット掲示板等において「同じ会社に勤めているAさんはBさんと不倫関係にある」といった誹謗中傷が行われた場合、名誉毀損罪の規定に当てはまるため、誹謗中傷を行った人物は名誉毀損罪で逮捕される可能性があります。 名誉毀損罪のポイントは「公然性」「具体的な事実」「社会的評価を下げる」といったことで、誹謗中傷の内容が個人の感想や抽象的な発言だと成立しないかもしれません。 参考:刑法第二百三十条 名誉毀損

【侮辱罪】

誹謗中傷で逮捕されるケースには「侮辱罪」もあります。侮辱罪とは「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱すること」で該当します。 例えば、SNS等において相手に対し「デブ」や「ブス」といった、具体性を伴わない個人の主観や印象などの投稿をした場合に侮辱罪が成立する可能性があります。 侮辱罪のポイントは「事実の摘示がなくとも」ということですが、逮捕に至ることはあまりないと言えます。 誹謗中傷をした人物が侮辱罪で逮捕されるには「被害者がどれほどの社会的評価低下の被害を受けたか」もポイントになるでしょう。 参考:刑法二百三十一条 侮辱

【信用毀損罪】

誹謗中傷で逮捕されるケースとして「信用毀損罪」も挙げられます。信用毀損罪とは「虚偽や偽計を用いて、人の信用を毀損した」ことで成立します。 具体的には、誹謗中傷の内容が嘘やデマといったもので、事実とは異なる内容をあたかも真実のように吹聴することです。 「A店は賞味期限切れの食材を使っている」や「B店は食べ残しを他の客に提供している」などの誹謗中傷は信用毀損罪に該当する可能性があります。 信用毀損罪のポイントは「虚偽や偽計」そして「(被害者の)経済的な信用を脅かす」ことで、個人よりも企業が絡むことが多いと言えます。 参考:第二百三十三条 信用毀損及び業務妨害

【脅迫罪】

誹謗中傷で逮捕されるケースでは「脅迫罪」もあります。脅迫罪とは「生命や身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫」することです。 例えば、インターネット掲示板や相手のダイレクトメッセージなどに「命を奪うぞ」や「襲ってやるからな」などといった内容を投稿すると脅迫罪に該当する可能性があります。 脅迫罪のポイントは「生命や身体以外も対象であること」そして「危害を加える告知」を含むことです。 昨今におけるインターネット上の誹謗中傷問題では脅迫罪を適用させるケースも多く、誹謗中傷で逮捕される事例の代表例と言えるかもしれません。 参考:第二百二十二条 脅迫

誹謗中傷で逮捕に至らないケース

誹謗中傷で逮捕に至らないケースとして、主に以下のようなものが挙げられます。
  • ・当事者間の口論や喧嘩
  • ・犯罪が成立しない
  • ・可罰的違法性に該当しない

【当事者間の口論や喧嘩】

誹謗中傷で逮捕されないケースとして「当事者間の口論や喧嘩」があります。友人や恋人同志の口論や喧嘩は原則として「公然」ではないため、名誉毀損罪や侮辱罪が成立しません。 ただし、行き過ぎた発言については「脅迫罪」などが適用されることもあるため、当事者間であっても逮捕されないとは言い切れません。

【犯罪が成立しない】

誹謗中傷で逮捕されないケースとして「犯罪が成立しない」ことも挙げられます。例えば、名誉毀損罪や侮辱罪、さらには脅迫罪といったいずれの要件に満たない場合、逮捕されることはないでしょう。 犯罪が成立しない場合は、刑事上の責任ではなく「民事上の責任」として、誹謗中傷を行った人物に対して慰謝料を請求する手続きが取られます。

【可罰的違法性に該当しない】

誹謗中傷で逮捕されないケースには「可罰的違法性に該当しない」ということもあります。具体的には、違法行為であったとしても、警察が刑罰の必要なしと判断することです。 仮に、警察が誹謗中傷被害を深刻に受け止めなければ、被害者は泣き寝入りすることになります。 事実、某お笑いタレントが殺人事件に関与したという事実無根の誹謗中傷を10年にわたって受けていましたが、相談を受けた警察が9年間放置していた事案も起きています。

誹謗中傷による逮捕例

誹謗中傷により加害者が逮捕された実例を紹介します。

【男子高校生自殺事件】

2017年、当時高校3年生だった男子生徒が誹謗中傷を理由に自殺し、誹謗中傷を繰り返していた19歳の少年が名誉毀損罪で逮捕されています。 逮捕された少年は自殺した男子生徒に対し「様々な女性に迷惑行為をしている」や「逃げ惑っている」などと誹謗中傷を繰り返し、これに耐えられなくなった男子生徒は警察に相談した翌日に自殺しました。 警察は誹謗中傷が多数回にわたって続いていたことや、被害者が自殺したことを重くうけとめ、逮捕に至ったとされています。

【女性研修医による誹謗中傷ビラ事件】

2017年、大阪市内のトイレに知人男性を誹謗中傷するビラを貼ったとして、20代女性研修医が逮捕されました。 逮捕された女性は知人男性の実名入りで「最低最悪の人間です。存在価値がありません。」と書いたビラを貼っていました。 被害を受けた男性が被害届を提出し、警察による捜査の結果、女性は名誉毀損罪で逮捕されています。 この一件は、誹謗中傷行為はインターネット上だけでなく、ビラなどによっても十分に逮捕される可能性があることを示した事例として知られています。

【アニメ監督殺害予告事件】

2020年、人気アニメ監督に対しネット掲示板上で殺害予告した20代男性が逮捕されています。ナイフで殺害するといった具体的な投稿以外にも、声優や製作者らも名指しして脅迫していたことが分かっています。 これにより、被害者らが身の危険を感じる結果になったことや、アニメ制作の作業が中断してしまったことが逮捕に至った要因と考えられています。

まとめ

誹謗中傷は逮捕される可能性が十分にあることが分かったと思います。匿名性が高いSNSやネット掲示板であっても発信者は特定され、条件次第では逮捕されます。 誹謗中傷で逮捕されないということはなく、誹謗中傷は罪になることを覚えておきましょう。