特集レポート

社長!その言動大丈夫ですか? 経営者が抱えるネット炎上リスク

2022年03月25日


【要約】

①経営者の言動起因のネット炎上事例が増加
 増加の背景には、新型コロナウィルスが大きく影響
②マスメディアの視聴率優先のネット炎上報道とコロナ禍で誕生した
 「自粛警察」による批判の過熱
③会社を守るためには、投稿の自主的なルール策定、モニタリング監視による
 早期沈静化までの仕組化

【目次】
組織トップの言動で揺れるネット社会
コロナ禍で変化 炎上するメカニズム
運用策定と早期発見が大事
経営者によるネット炎上からわかること

●組織トップの言動で揺れるネット社会

ワイドショーを観ていると、経営者や組織トップの言動による炎上報道を見かけます。最近では、健康食品会社の経営者による差別発言や、自治体首長の誠意のない謝罪文による炎上報道が記憶に新しいです。そのような経営者による軽はずみな言動による炎上報道を見て、「うちの社長も心配だなあ」とヒヤヒヤしている読者も多いかもしれません。 実は、「社長の言動がネット炎上しないか不安」「もし社長の言動でネット炎上したらどうしたらいいか」などの問合せや相談が増加しています。今回は、経営者による炎上の発生メカニズムを探り、ネット社会でどうすれば炎上被害を防いでいけるのか考えていこうと思います。

●コロナ禍で変化 炎上するメカニズム

経営者が炎上する原因として、大きく分けて①社会構造的要因と②行動的要因の2つの要因があります。 まず、①社会構造的要因ですが、ネットとマスメディアの関連性がネット炎上に影響を与えています。山口真一氏の著書によると、ネット炎上する背景には「ネットのバイアスが働いている」と述べています。
実際は、中立的な考えの人が多いのですが、極端な意見の攻撃性が怖いので「リスクを避けるために発信そのものをしない」という状態になります。その結果、ネット上には極端な意見が多くなり、強い批判的な意見だけが投稿されます。ネット上では「みんな批判している」「ネット炎上している」と見えてしまいます。このような認識が広がるために、小さな火種でも、各種マスメディアによって取り上げられて大きな炎上へとつながっていくのです。

 マスメディアにとって、炎上報道は視聴者の感情を煽ることで視聴率が稼げるコンテンツともなり得ます。ニュースを見た読者が自分でも意見を書き込み、やがて炎上として広がっていくという構図になります。  また社会構造的要因として、新型コロナウィルスで登場した「自粛警察」の存在がネット炎上をさらに過熱化させています。緊急事態宣言が長引く中で、「自分が信じる正義」を他人にも強要して「私は倫理的で道徳的な人間だ」という、精神的な満足感を得ているように見えます。その背景について、中野信子氏の著書によると、自粛警察が過激化するのは「悪者を発見して自分の不安を解消したい」という気持ちからきていると述べています。これはネット炎上でも影響しております。コロナ禍での不安や不満な気持ちがネット炎上を増やしている可能性があると言えます。
加えて、「上級国民」と呼ばれる層への批判も強くなりました。例えば、大手薬局チェーンの社長がワクチン接種の便宜を図った問題がネット炎上した事案。社長という地位を利用して、自分だけ優先接種しようとしているのではないか、と批判が集まりました。コロナ禍という先が見通せない状況にあって、市民の不満や不安の矛先が、所得や地位も高い経営者や政治家、組織のトップに向ける傾向がより強くなっています。

 次に②行動的要因ですが、経営者の謝罪の行動に問題があります。一例をあげると、謝罪に誠意が感じられず、火に油を注ぐ結果となり、さらに炎上が拡大したケースとして、自治体首長による謝罪が、メモ用紙に殴り書きで、誤字があっても書き直しせずに謝罪文を出しケースで、さらに批判が殺到しました。この場合、「真摯な姿勢で丁寧に誠意をもって謝罪する」ことが重要でした。
上記の例では、結果として経済的損失と職員の負担も甚大でした。自治体による分析結果によると、炎上事案から謝罪まで含めて1万5千件を超える批判が電話やメールで殺到しました。1件当たりに要する対応時間を積算すると、計約1200時間になります。一般的な自治体職員の月額の平均給料などから算出すると、1200時間は給与約264万円分になると分析しています。

●運用策定と早期発見が大事

事業をする上で、コロナ禍で炎上リスクが高まったとしても、ビジネスチャンスを増やしくために、外部に積極的に情報発信していく必要があります。すでに多くの経営者が自らの言葉で情報発信しています。発信が増加することに伴い、炎上リスクも比例して大きくなります。少しでもネット炎上リスクを小さくするために、あくまで一例ですが、以下のようなルール策定を設けることをお勧めします。

【ルール策定の例】

① 対立論争(宗教、政治、人種、LGBTなど)がある投稿はしない
② 発言する前にはその影響力を考え、自社に批判的なメッセージに反論しない
③ 個人的な行動の投稿(食事、旅行、集会、面会)の発信は避ける

個人的な投稿を避ける理由として、例えば水害発生時には「私たちが豪雨で避難して苦しんでいるのに、贅沢な食事をしているのは不謹慎」などと批判されることが想定されます。自慢しているつもりではなくても、ネットユーザーはネガティブな印象を持ってしまい、「極端な意見」で批判される恐れがあります。
一方、経営者に対して、「ルール策定して発信してほしい」と声に出せない担当者も多いと思います。そこで、経営者の投稿の監視、自社が炎上してないか常時モニタリングする仕組みを設けることをお勧めします。問題になる言動をした場合、早期に発見できます。発見後、事実確認を行い、公式見解・必要であれば謝罪表明などを炎上が広がる前に対策することができ、被害を最小限に抑えることができます。しかし365日24時間でのネット投稿監視は事実上難しいでしょう。そこでモニタリング専門会社がネット監視を代行して、就業時間以外でも365日24時間のネット投稿監視を可能となります。  さらに加えて、炎上防止のためのリテラシー向上も有効です。ネット炎上対策として有効なのが、ネット炎上を体験できる「炎上防災訓練」の受講。経営者自らネット炎上の疑似体験していただき、ネット炎上を「他人事から自分事化」への意識改革できるプログラムを用意しています。

経営者によるネット炎上からわかること

 

以上のように、コロナ禍という大きな時代の転換期で、ネット炎上のリスク要因も変化しています。大企業の場合、ネット炎上で即倒産することは考えにくいですが、ブランドイメージダウンや株価下落、不買運動などの経済的損失もあります。クライアント・株主への対応、メディアからの取材問合せなど業務へ支障もでてきます。
一方、ベンチャー企業や中小企業が炎上した場合は、企業の存続危機になりかねません。軽はずみな言動で、積み上げてきたものを失うリスクがあります。経営者として守るべきものは自身のプライドではなく、会社の存続と、従業員かもしれません。経営者、組織のトップの発言は社外にも影響力があります。「今、書き込もうとしている投稿は大丈夫か?」「批判されるような投稿ではないか」という客観的な目線と、「自身の言動によって傷つく人がいないか」という当事者意識をもって、細心の注意を払うことがコロナ禍という新時代で大切かもしれません。

<引用・参考文献>
COVID-19で加速するネット炎上のメカニズムと社会的対処(2020)山口真一
『人は、なぜ他人を許せないのか?』アスコム(2020)中野信子著
『炎上とクチコミの経済学』朝日新聞出版(2018)山口真一著