ネット炎上最前線

公益通報者保護法改正とは?ネット炎上最前線

2021年11月05日


公益通報者保護法改正とは

 2020年5月に公布された「公益通報者保護法改正」(以下、本法とします)はご存じでしょうか。本法は、企業の不祥事による被害拡大を防止するため、内部通報者の保護に関するルールを定めた法律です。公布から2年間を企業への周知活動期間として、2022年中に施行される予定の法律です。
 背景として、国民生活の安全・安心を損なう企業不祥事が、事業者内部からの通報をきっかけにして、不祥事が明らかになるケースが増えてきました。この際に告発者が不当な解雇に合うといった、会社から不利益な扱いを受ける状況に陥らないためにも、本人を保護しなければなりません。通報を把握した後は、事業者側には真摯で適切な対応が求められます。早期の把握によって内部の改善を自発的に行うことが大切です。内部告発が周知されてしまった場合は、一時的に低下せざるをえない社会的な信頼を、様々な対策によって回復する必要が出てきます。内部告発がなされる機会は様々で、ネット上での内部告発も発生しています。

●公益通報者保護法について

 本法を適用する基準は、対象の法律に違反するかどうかで判断されます。例えば、パワハラ、セクハラ等に関しては、刑法(脅迫、暴行罪等)に抵触する可能性があり、本法の適用となります。しかし業務以外の私生活での違法行為(プライベートでの交通事故等)は、適用外となります。保護の対象範囲が「事業に従事する場合」に限定されているためです。  
 上述したように、本法施行の背景は社会情勢や社会要求の強いものだと言えます。近年、公益通報の件数は増えています。マクロミル社の調査によると、2020年の調査では、従業員100人あたりの通報件数を統計的に処理し算出した結果、1.3件/年で、2018年調査結果の0.5件/年と比較すると明らかに通報が増えているという結果になりました。 
 本法改正のポイントをご紹介します。1つ目は301名以上の従業員がいる会社が対象となり、内部通報体制の整備義務が定められました。通報窓口の設定、適切な社内調査、是正措置、通報を理由とした不利益取扱いの禁止、通報者に関する情報漏えいの防止、内部通報規程の整備・運用などが求められています。従わない場合には行政処置もありえます。 
 2つ目は内部調査に従事する者の情報の守秘義務の存在です。違反した場合は30万円以下の刑事罰の対象にもなります。上記2つのポイントから、内部通報制度を整え、企業倫理・企業の社会的責任が企業に問われていきます。 
 実は、公益通報、いわゆる「内部告発」からネット炎上になった事例も近年あります。その事例を踏まえてネット炎上対策について考えていきたいと思います。

内部告発から炎上した事例

 エネルギー関連企業の従業員が「売電価格の不正操作」に関する告発投稿を行いました。SNSでの告発後、ネット炎上にまで発展しました。テレビ番組などのマスメディアが取り上げた結果、一連の騒動によって株価が40%も下落してしまいました。  
 他にも上場企業の従業員の家族が「夫の人事異動への不満」についてSNSで告発した事例があります。「夫が育児休業明けに転勤を命ぜられ、時期の延期など交渉をしたものの聞き入れてもらえなかった」という内容をネットに投稿し、企業に批判が殺到したという内容です。働き方改革や男性の育児参加が注目される時代と逆行しており、企業のブランドイメージの低下につながりました。また内部告発までは行かないまでも、台風の日に「#台風なのに出社させた企業」というハッシュタグを従業員自ら投稿するケースもあり、いわゆるブラック企業としてネット上で非難が広がる動きも発生しています。

内部告発から守る!3つの防止策

 スマートフォンとSNSの普及により「匿名で」「いつでも」「どこでも」意見の発信がより簡単にできるようになりました。上述した本法施行により、まずます告発者保護の側面が強くなりますので、会社への不満、不正・不祥事の内部告発が増えてくると考えられます。企業のガバナンスが機能していれば、不正行為や企業不祥事の発生を抑制できます。
 コンプライアンス教育や内部通報制度がしっかり整備されていれば、パワハラ、セクハラ等を予防することができるでしょう。しかしながら従業員のSNS投稿による炎上リスクをゼロにすることは難しいと言えます。また違法行為の発見が遅れると、事業者の処罰や行政措置などによる損失、拡大した被害の補償コスト、消費者や取引先からの信頼の低下や従業員の士気へのダメージがあります。そこで内部告発によるネット炎上を防ぐための防止策を紹介します。

弊社がお勧めする防止策案

  • (1)ソーシャルメディアの利用上のルールを具体的に規定し周知・徹底
  • (2)就業規則へソーシャルメディアの利用に関する規程の追加
  • (3)炎上リスクの他人ごと化から自分ごと化への意識改革

 あくまでも社内の内部通報制度を活用することを推奨した上で、「業務上知り得た情報、会社の雇用条件、経営情報などは匿名であっても発信しない。」などのルールを設け、会社の就業規則等に盛り込んでいきます。その際に、違反者には罰金や処分についても明記しておきます。ルールによる抑止力と、ルールを設けることで株主、取引先に安心感を与えることができます。
 次にSNS告発の影響を想定することは難しいため、弊社ではそのトラブルを事前に体験できるe-learningを用意しております。よかれと思って実施したSNS投稿によって、自分だけではなく会社にも多大な悪影響が発生する。その事案を体験することで、SNS投稿のリスクを学習することが可能です。
 これによって会社を良くしたいと思う気持ちは、SNSではなく社内のコンプライアンスの仕組みを利用するのが最善という意識が生まれるでしょう。  

まとめ

 本法では公益通報者の保護と企業不祥事に対する自浄作用への要求が強くなっています。不正やリコール隠し、隠蔽、パワハラなど経営者の目が届かないところで、既にあなたの会社でも発生しているかもしれません。それが、ネット上で告発されてしまうかもしれません。今まで築き上げた企業の信頼と良好なイメージを守るために、ルール策定、運用などの取り組みなども検討するタイミングではないでしょうか。

<引用・参考文献>
マクロミル社「内部通報制度の現状調査(2021年)」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000027.000034478.html
東京弁護士会公益通報窓口(https://www.toben.or.jp/bengoshi/koueki/)
「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)に関するQ&A(改正法Q&A)令和2年8月版」