炎上動向調査マンスリーレポート

炎上動向調査マンスリーレポート 2021年10月号

2021年11月11日


2ちゃんねる、Twitter、個人ブログより抽出
(Twitterデータは10分の1のサンプリングデータ)
2021年10月の炎上ついて振り返っていきます。主なネット炎上としては、岸田総理大臣の「食事投稿(お好み焼き)」騒動、「今日の仕事は、楽しみですか。」品川駅広告の炎上、立憲民主党の「出馬断念圧力」騒動、はんつ遠藤氏(フードジャーナリスト)の炎上報道の続報などに関する投稿が多い結果となりました。新政権誕生や総選挙といった政治日程が詰まった時期であり、SNSでは政治関連の投稿が多い1か月間でした。

その中で弊社が注目したのは、「今日の仕事は、楽しみですか。」品川駅広告炎上案件(以下、当該案件とします)です。今回は、なぜ炎上に至ったと思われる背景を「5W1H」で整理して、対応のヒントを探ってみましょう。

「今日の仕事は、楽しみですか。」の炎上背景

企業で広告起用している芸能人がネット上で政治的な偏向発言を行った場合、企業において様々な影響が発生。まず挙げられるのは、反対派からのクレームや攻撃的な反応です。「なぜあの芸能人を起用しているか」「起用しているおたくも(企業も)芸能人と同じ意見なのか」といった内容への対応に追われます。
 次に、SNSを中心に反対派による自社製品の不買運動が始まり、他の生活者の同意を得てしまった場合は、自社の株価暴落、憶測や誤認による風評被害まで発生してしまう可能性があります。その際に、株主への説明や、報道機関からの取材対応、公式見解の発表など、緊急対応が必要となります。従業員の労力が割かれるだけでなく経済的な損失も発生します。

炎上を5W1Hで整理

当該案件について、どのような点に問題があって批判されたのか整理してみましょう。

表①

分類 内容
When 時間 緊急事態宣言解除後の月曜日の朝
Where 場所 品川駅(ターミナル駅)
Who 火種 広告主のツイート投稿
What 媒体 コンコースの電子看板 駅全面ジャック
Why 理由 広告メッセージの一部が 刺激を与えた
How 結果 翌日に謝罪及び広告の取り下げ

表①では、ネット炎上に至った内容について5W1Hで分解し整理してみました。当該案件で注目したい点は3点あります。

ひとつ目は、「時間」です。10月1日より日本全国で緊急事態宣言もまん延防止等重点措置が解除され、10月4日は解除後初となる月曜日にあたります。テレワーク勤務から通常出勤にかわり、その日から通常出勤した会社員も多かったかもしれません。株式会社リクルートが400人を対象にアンケート調査を実施したところ、テレワークに切り替えてみて良かったと回答した人が、78.8%にも上りました。(※株式会社リクルート アンケート調査(2020))アンケート結果から推測しても、緊急事態宣言明けの翌週の月曜日の朝に、「今日の仕事は、楽しみですか。」という投稿を見てしまうと、不快感や違和感を持つでしょう。

 ふたつ目は、「場所」です。品川駅はソニーなど日本を代表する企業がオフィスを構えています。東京を代表するオフィス街で、多くの会社員が利用している巨大ターミナル駅です。この駅の利用者の中には、「仕事が辛くて出社したくない人」「辛くても頑張って出勤している人」もいると想定した場合、当該案件の一部のメッセージが際立ち、他者への気持ちの理解や配慮に欠けているといった感想が表出してしまいます。(※ポストセブン(緊急事態宣言解除後の通勤増))

 最後に、注目するのが「誰が」です。実際に品川駅のコンコースを歩いている人物の投稿ではなく、今回のネット炎上の発端は、広告主企業の社長によるTwitter投稿がきっかけになった可能性があります。この投稿を見たTwitterユーザーが拡散しました。現場のコンコースでは、数秒だけ映っただけで、問題の内容は、広告における「つかみ」に過ぎませんでした。直後に画面がスクロールして「仕事を楽しいと思える人を増やしたい」というメッセージが流れます。代表によるTwitter投稿の画像は、メッセージ性が強く、過激で刺激的な表現に映ってしまいました。

炎上予防のための注意点

広告を展開する目的は、そのメッセージをターゲットとなる人物に訴求して、関心や消費行動を喚起、あるいはイメージアップを図ることです。しかしメッセージ性を強くしすぎる場合、あるいはそのように受け止められる場合には、想定以上の拒否反応が生まれます。当該案件のように批判が広がり、企業へのマイナスイメージだけでなく、事後対応に追われることになります。自社で問題ないと想定しても、今回の事案のように一部だけ切り取られてしまう場合もあります。

広告メッセージやビジュアルのチェックに加えて、誰かに過度な刺激を与えないかどうかについても検討してください。特に当該案件では、「時間」と「場所」がトリガーだったかもしれません。広告を出すうえでTPOを考え、広告を見て「不快に思う人はいないか」という視点が求められます。

まとめ

以上述べた通り、炎上する背景には原因があり、5W1Hで分解すると何が根本的な要因だったかを整理できます。人の心を動かす広告を出すには、刺激的ないわゆる「刺さる」ものを追求しながら、受け手の反応も想定しておきます。近年は広告への非難が原因となったネット炎上案件が発生しています。2021年では、成人の日の全国紙朝刊での国際的飲料メーカーの広告、ハイブランドの「着物の帯の上を歩く」広告などが挙げられます。業界問わず、今後も広告批判は出てくると予想されます。不本意なネット炎上を防ぐために、今回の事例を踏まえたうえで、広告におけるTPOを見直してみてはいかがでしょうか。